●友達のバンドが解散したんですよ。
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いやもうね、鬼のように忙しい連休でした。
なにがどう忙しかったって一言でいうならですね、こうなんていうんですかね、俺があまりにも周囲の人たちに気を使いすぎてですね、俺のあまりの優しさに周囲の雰囲気も一変でありまして、穏やかであり、ほがらかな連休に出来たのではないかと思います。
金曜日にですね、会社が終わっても誰にも誘われずに声すらかけられずにみんな黙々と残業している中、俺はとっとと家に帰りましてね、今日は一日PSOとケロロ軍曹に染まっちゃうぞーなんてウキウキワクワクしていたら、電話。
なんだよなんだよ、俺がそんなに黙って逃げ帰ってきたことが問題にでもなってやがるってのか?
仕事なんてな残業してまでやりたくねーんだよ、こちとらケロロ軍曹のDVD借りて忙しいんだからよーなんて思いつつも、着信ボタンを押そうとすると、友達の名前。
「あ、POO、俺俺、俺だよ俺」
切りました。
もうね、俺はね、今夜はPSOとケロロ軍曹にだけ体を預けるって決めて帰ってきたので、くだらない電話の相手なんかしてられないんですよと思っていたら、また電話。
「あ、POO、ごめんねー、FOMAの電波悪くて切れちゃったよー」
切断。
さぁーって、はやくケロロ軍曹のDVDを見てー、夜はPSOのレベル上げにいそしんで早くレベル100にならないと俺泣いちゃうもんとか思っていたら、三度電話ですよ。
「やっぱFOMAだめだわー、なんかすぐ切れちゃうし。さっきから悪いんだけど、今からウチ来て」
イヤだ、ふざけんな、俺は今夜ケロロ軍曹見て、アンゴル族のモアたん見て一人でハァハァしながらモアたんモアたん言いながら夢の中でモアたんと二人っきりでモアたんハァハァする予定なので、お前なんかの家に行ってたまるか!
「日曜日にさー、俺らの解散ライブやるじゃない? でね、今から解散さようならパーティーするんだけど、来てよ」
お前な、お前に一つだけ忠告しておいてやるがな、お前らのバンドが解散しようとCDデビューしようと大麻パーティーしようとな、俺には全く関係がないのだよ。
大体な、今俺の手元にあるこのDVDはだな、俺がケロロ軍曹好きなのに、ビデオデッキがないために毎週土曜日早起きも出来ずにケロロ軍曹を見逃してはグチっている俺を可哀想に思った友達がせっかくDVDレコーダーで録画してくれてプレゼントしてくれた大切なDVDなんだよ。
お前らの解散ライブと、この友情が詰まったDVDを俺が見るのと、一体どっちが大切だと思っているんだね、アアン?
「姉ちゃんも来るし、みんな来るよ」
「行く、全速力で行く、任せろ、通常の三倍の速度で向かってやる!」
「本当に!? ありがとう、待ってるよ!」
「当たり前じゃないか、俺たち、友達だろ?」
やっぱり、友達が大学生活の中で学業とアルバイトに頑張りながら続けてきた大切なバンドが、バンド仲間の就職活動のために解散なんだもの。
DVDなんてね、いつだって見れるじゃないですか。
ケロロ軍曹がなんだっていうんですか。
大切なものって、やっぱり、保存出来ないと思うんだよね。
いつも当たり前に思っていることが、当たり前すぎて気が付かなかったことが、無くなって初めて大切だったんだって、気づくんだよね。
そうだよ、友達があれだけ頑張っていたバンド活動なんだから。
今、俺が応援してあげなくて一体なんだっていうんだ。
そうさ、今夜は無礼講さ、俺のありったけの友情を感じて欲しいんだ。
そんなわけで、金曜日の夜は友達の家に行ってどんちゃん騒ぎをしたあげくにトイレで口から拡散波動砲を打ちっぱなしの友達に付き合って、改めて感じました。
……姉ちゃん来るって言えば、俺が来ると思ったな、コイツ?
なんで俺はキレイで美人なお姉さんの横に座って談笑しながら二人でそっと家抜け出して静かな夜の住宅街を手をつなぎながらあるいて近くの公園でベンチに座って肩を抱いてそっと口づけてちょっとだけ苦いタバコのフレイバーを味わいながら朝日は二人でベッドの中から眺める予定だったのに、こんなところで拡散波動砲に付き合っているんでしょうか?
俺の靴下見てくださいよ、なにかポツポツと黄色い染みが出来ているじゃないですか。
「本当はバンド解散なんてしたくなかったんだ、解散なんてイヤだぁー」
お前な、トイレの便器にしがみつきながら涙目で一体何を訴えているんだと。
まさにあれですか、今のお前は甘酸っぱい青春ど真ん中ってやつですね。
こっちにも酸っぱい匂いが漂ってきますよ。
大体あれですよ、今の俺に言わせてもらえば、バンドの解散はどうあれ、どうしてここに姉ちゃんがいないんだと問いつめたい、小一時間は問いつめたい、お前の酔いがさめるまで問いつめてやりたい。
なにがさっき彼氏と出かけていっただ。
未来の彼氏が、ここにいるだろう!
「先輩も就職なんかしねーでさ、もっと大学にいりゃいいのに、なんで自分から好きなもの捨てて就職なんかしなきゃいけねぇんだ。バイトだって生活くらい出来らぁ!」
はぁーあチキショウ、本当だったらお姉さんの耳元でケロロ軍曹ってとっても可愛くて面白くてね、ボクはギロロ伍長の大ファンでしてね、アンゴル族のモアたんていう女子高生の格好をした宇宙人がいましてね、この子がまたこう純真で素朴で見てるだけでワクワクドキドキ超可愛いんですよ――あ、もちろんお姉さんの方がキレイですよ、とっても可愛いし見ているだけで引き込まれそうな瞳でもういつまででも見ていたいしもっと近くで見ていたいなぁ、なんて、ウソ、ウソですって冗談ですよー、あれ、本気にしちゃってません? なんかほっぺた赤くなってますよー、やだなー、照れたお姉さんも可愛いなぁ~なんて、やっているハズだったのに!
「POOよぉ! 俺の気持ち分かる!? 俺が今言いたいこと分かる!? 俺、もっとさ、もっと先輩たちと一緒にバンドやってたいよー!」
「ああ、そうだな。でもな、いつかお前も大学を卒業しなきゃいけないときが来るんだから。だから、その時、今のお前みたいに見送ってくれる後輩、今から育てていけばいいじゃないか」
出来れば女の子で、とーっても可愛い子がいいな、で、出来ればパソコンとかに興味があって、ゲームとマンガと映画が好きな子がいいと思うぞ。
それで、今まで男の子と付き合ったことがないなんていう奥手な子がいいと俺は思うな。
あ、別に見た目地味でもいいよ、俺そういうの全然気にしないし、そうだ、出来れば十代だな、やっぱ十代がいいよ、うん、絶対十代だって、探そうぜ、なんだったら女子校の学園祭とか行こうぜライブしに行けばいいじゃんっつか、そしたら俺がマネージャーやってやるっつーかプロデューサーやってやるっつーか俺音楽なんて全然分かんないけど、まぁ口先だけでなんとかやってやるから心配するな、お前はとりあえずバンド存続のために可愛い女の子を探すんだ、さぁこんなとこでぼーっとしてる場合じゃないぞ、女の子だ、十代の可愛い女の子を探すんだ!
そして、バンドに引き入れるんだ!
「新しくバンドを作ればいいじゃないか。それで、お前の先輩たちのように、また楽しく愉快なバンドを、お前自身が作ればいいんだ」
もうね、友達はですね、トイレに拡散波動砲をかましてるんだか泣いてるんだか分かりませんが、ああ、俺ってなんて友達思いなんだろうナァと感慨深げにタバコを吸った次第であります。
人生、別れがあれば出会いがあるわけで、いつまでも落ち込んでないでとっとと新しいバンド立ち上げて、今度こそは女の子をメンバーにいれなさいと希望を出して帰ってきたころには、もう土曜日の午後ですよ。
解散ライブのビデオはしっかり撮影してやったので、あとでテープ代よこせよな。
思い出の代金だと思えば、安いモンだろう、ウッシッシ。
まぁ、こんな調子で打ち上げにも参加して、なぜか打ち上げにはウチの彼女もいたりしまして、どういうわけか俺の横で監視するような目で俺をにらんでいたわけですけども、NARUTOの映画を見せたら機嫌が直りました。
あーもう、俺のケロロ軍曹は一体いつになったら見れるんだぁーっ!
